2009年04月01日

新モバイルエコシステムのススメ(1)

毎月の通信料を見るといつもため息である。まがいなりにも通信の研究開発・事業化に携わっている身であり、通信サービスの実態を知ることは重要と考え、泣く泣く高い通信料を払っているわけだが、料金の妥当性については幾ばくかの疑問を禁じ得ない。

そもそも、なぜ、我々ユーザが金を払ってネットワークを利用するかというと、そのネットワークを介して提供されるサービスを利用するためである。ネット ワークに接続することだけのサービスなど誰も必要としない(イメージしにくいかもしれないが、たとえば、ネットワークにログインして通信会社とのコネク ションを確立しておしまい・・・このようなサービス)。

通信網を利用するサービスは、昔は唯一電話しかなかった。この時代は、ネットワーク提供者=サービス提供者であったから、暗黙のうちに通信料とはサービス 使用料、すなわち電話代だったのである。しかし、インターネットが出現してからは、多様なサービスが出現し、サービス提供者がネットワーク提供者から分離 された。このような状況の下で、ユーザが支払う対価の行先がネットワーク提供者ばかりであるというのはおかしい。

私が気に入っているインターネットビデオニュースは月額500円の有料サービスである。このコンテンツを家で視聴するためにはFTTH回線料である月額 6000円を、また外出先で視聴するためにはさらに月額5000円の無線ブロードバンド通信料を支払わなければならない。合計、11、000円もの出費で ある。無論、11、000円は、この500円コンテンツのためだけの通信費ではないが、さすがにこれほどまでに通信料が高額だと、それ以外の有料コンテン ツを購読するのはかなりの勇気を必要とする。別の言い方をすれば、11、000円の負担が軽減されれば、もっとたくさんの有料コンテンツを購読するだろ う。

モバイル通信の世界でも同じことが起きている。携帯電話の利用目的が、従来の電話利用からメールやインターネットなどのコンテンツ利用へと移行が進んでい る。電話サービスが中心だったころは、携帯電話会社へ支払う通信料は、すなわち携帯電話代であった。しかし、コンテンツサービス中心の時代においても、コ ンテンツ視聴料よりネットワーク利用料のほうが高いとなると、これもやはりおかしい。

ユーザ、ネットワークそしてサービスがあって、モバイル通信ビジネスは成立する。電話の時代は、ネットワークとサービスを提供する主体が同一であり、お金 の流れがユーザからネットワーク提供者へと向かうのは、これ以外の選択肢がなく致し方がない。この電話時代のモバイルエコシステムが、インターネット時代 には、もはや合理的でなくなってきているのである。

コンテンツにこそ価値がある。しかし、ネットワークがなければ、サービスの伝達はできない。問題の本質は、コンテンツ提供者とネットワーク提供者の間で、 ユーザから得たお金をどう配分するかにある。これまでのように、ユーザが支払う通信料の大半をネットワーク提供者が得る仕組みは、上述のように、今日のイ ンターネット時代においては合理性に欠くと言えよう。ユーザは、コンテンツにこそ最大の価値を見出すのであるから、ユーザが支払うべき対価はコンテンツに 対して主となるべきだ。一方、コンテンツ提供者へ目を向けると、このような不合理な状態の下では、彼ら自身が提供するコンテンツがネットワークの負荷を高 め、輻輳させる危険性があることに対して無頓着になりがちである。これがインフラただ乗り問題のような問題を引き起こす。

しかし、お金の流れがユーザからコンテンツ提供者へ流れるようにしただけでは、逆にネットワーク提供者のビジネスが成り立たなくなってしまう。このようなエコシステムはそもそも成立し得ない。

ここで、コンテンツ提供者もネットワーク利用の受益者であることを指摘したい。コンテンツ提供者もまた、ユーザと同様に、彼らのコンテンツをユーザへ届け るためにネットワークを利用しなければならない受益者の一人なのである。彼らにネットワークの敷設コストを負担してもらうことは至極当然のことではない か。

・・・ということで、私が考える新しいモバイルのエコシステムとはこうだ。

ネットワークの敷設・メンテ・運用コストを、これまでのようにユーザからの直接的な収益で賄うモデルを改め、コンテンツ提供者を受益者とみなして彼らから 回線利用料を徴収し、これでもって間接的に賄うモデルへと変える。間接的と表現したのは、コンテンツ提供者は基本的にユーザからの視聴料により回線利用料 の元手を得るからである。

このような新モバイルエコシステムでは、ユーザが払うネットワーク利用料はコンテンツ使用料へ転嫁され、見掛け上、ネットワーク利用料は無料となる。され ばコンテンツ利用料の高騰を指摘する読者もいるだろう。が、人気あるコンテンツにはスポンサー企業もつくだろうから、これがコンテンツ使用料を下げる効果 を引き出す。人気のあるコンテンツは無料で提供できるかもしれない。

ネットワーク利用料が仮に無料であれば、浮いた分を複数の有料コンテンツの視聴に充てたいと思う私のような人は大勢いるはずだ。コンテンツ産業の活性化も 促せる。ユーザからお金が稼げると思えば、コンテンツサービスで一山当てたいと思う事業参入者が増えるはずだ。また、コンテンツ提供者へ課する回線使用料 に消費帯域に応じた従量課金を導入すれば、コンテンツ提供者へ回線消費に対するコスト意識を植え付けることが可能となり、インフラただ乗り問題も解消でき る。

なお、上記のコンテンツ提供者(あるいはサービス提供者。ここでは両者を同義に扱っている)はなにもソフト的なサービスに限定する必要はない。端末ベンダ なども含んでよい。たとえば、アマゾンのkindleみたいなコンテンツと端末とが一体化したサービスを提供する事業主体も上記のサービス提供者とみなさ れる。あるいは、あるメーカのゲーム機を買えば、ネットワーク利用料が無料になるとすれば、このゲーム機に付加価値を与えることができるだろう。この場 合、ネットワーク利用料はゲーム機メーカが負担する。

上記の新モバイルエコシステムでは、多数のサービス提供者が通信インフラの敷設・運用・メンテナンスコストを分担する相互持ち合い型の通信インフラを形成する。ユーザは視聴料としてサービス提供者らへコンテンツ利用の対価を払い、ネットワーク利用料を別途払う必要はない。

新モバイルエコシステム実現のためには、コンテンツ提供者や端末ベンダが互助会的な組織を形成し、ここがインフラの敷設・運用・メンテを担当するような運 用形態が考えられる。さて、肝心の通信インフラはどのようなものを選択するべきか?これらについては、後日また考察したい。


タグ :通信無線


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